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不思議の森に秘められたストーリー『室生山上公園芸術の森』

ぐるぐると迷路のような水路に、見る角度によってカタチが変わる塔…「ファンタジーの国って、きっとこんな場所」と思わせてくれる「室生山上公園芸術の森」。とっても山深い室生地区になぜアート空間があるのでしょう?散策をしながら、公園の“裏側”を探ってみましょう。

公園の散策からスタート

室生寺から山を登り、眺めの良い中腹にある「室生山上公園芸術の森」。
一歩公園に足を踏み入れると…なんて雄大なランドスケープ!爽やかな木々の香りが身体をまとい、まるで室生の自然に包まれている気分です!

魅惑的なオブジェが点在し、公園全体がアートみたい!
訪れるだれもがオブジェに溶け込んでしまう、とっても不思議な空間です。

室生でつながる二人のアーティスト

なぜ、これほど山深い場所にアート空間があるのでしょう? この公園が作られた理由を探ってみましょう。

この公園の設立には、二人のアーティストが深く関わっています。一人が、旧室生村出身の井上武吉(ぶきち)氏(以下、武吉)。もう一人がイスラエル出身のダニ・カラヴァン氏(以下、カラヴァン)です。ともに世界で活躍する彫刻家であり、旧知の親友でもあった二人が、アートを通じ、室生の地でつながっていきます。

有名なアーティストとなった武吉でしたが、衰退しつつある郷里のために「森の回廊計画」を構想しました。これは、室生村に自分の彫刻作品を配置し、美術館を巡るように、人々に村巡りをしてもらうという構想です。この計画に賛同した村の行政は、『むろうアートアルカディア計画』(1997年)を策定。武吉の思いと村の地域活性化への構想が合致し、村の再生に向けたプロジェクトが動き始めました。

「室生の村を人間と自然が共存する美術館にしたい」。『森の回廊計画』と呼ばれる、アーティストらしいコンセプトを打ち立てた武吉でしたが、1997年9月、公園の完成を見ることなくこの世を去りました。


道の駅・室生にある武吉の遺作「my sky hole 地上への冥想 室生」

武吉のコンセプトを理解し、志を受け継ぐアーティストとして白羽の矢が立ったのが、カラヴァンでした。コンセプトに共感した彼は快諾し、デザイン、設計、監修を担当。2006年10月、地域とアートを融合する「室生山上公園芸術の森」が完成したのです。
二人をつなげたもの。それは、お互いへの尊敬であり、室生の自然への敬意だったのでしょう。

室生を表した12のオブジェ

カラヴァン作品の特徴は、展示している場所の風景も取り込んだスケール感のあるオブジェ。ここでも、室生の自然を取り込みながら、彼らしい独創的な12のオブジェを見ることができます。特に特徴的な作品をご紹介しましょう。

第2の島

湖に浮かぶように作られた丸い3つの島。中でも、三角形の特徴的なモニュメントがある「第2の島」は、カラヴァンの作品の中でよく使われるモチーフです。彼は「テントの島」と呼び、人々が集い、語らう場所になってほしいとの願いを込めました。

太陽の道

室生寺をはじめ、重要な神社仏閣が存在する北緯34度32分のラインである「太陽の道」。カラヴァンの構想は、海の向こうまで目指し、国境を越えてつながることを意識していました。

波型の土盛り

昔からこの場所にあった「弘法の井戸」へとつながる遊歩道。井戸に向かって歩いていると道がだんだん狭くなるのですが、振り返ると並木が平行に見えます。これは、遠近法による目の錯覚で、武吉が作品で用いた手法。カラヴァンによる、親友・武吉への敬意の表れです。

不思議で、アートスティックで、訪れる人を虜にする場所。でも、その舞台裏には、多くの人の思いや願いが込められていたのですね。

ここを「五感で感じる場所」だと話したカラヴァン。ぜひ、不思議な世界へと誘う、アート空間を体感してください。


A journey through time crossing nature, landscape and memories. 
「自然、風景、記憶と交差する時間を通る旅へ」 ダニ・カラヴァン

豆知識

井上武吉
(1930 – 1997)
宇陀市(旧宇陀郡室生村)出身。武蔵野美術学校彫刻科卒。東京都庁舎をはじめ、多くの公共建築のモニュメントを手がける。日本を代表する彫刻家である。

ダニ・カラヴァン
(1930 – 2021)
イスラエル出身の彫刻家。展示場所の自然や歴史と深く結びついた「環境芸術」と評されるスケールの大きな作品が特長。

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